Written by 中野 香織May 10,2017
(その2より続く)何種類ものスパイシーなお茶やコーヒーをいただきながら、ほかにも多くのことを学びました。イスラム教のラマダンは一日、絶食することで知られていますが、実は本来は、「他人のことを考える」「貧しい人たちを助ける」という意味合いがあったのだということ。食べ物はできるだけ多くの人に分け与える、そのような思いをもって、食べ物に恵まれた者は絶食するのだそうです。さらに、妊婦や子供であったり、気分がすぐれない時などは、ふつうに食事をしてもかまわないとのこと。もともと、イスラム教と仏教は他者への思いやりという点で似たところがあるのだそうです。一部のテロリストが曲解して、間違ったイメージが普及していることもあるというのは、とても残念なことですね。
すでに午後も半ばの時間にさしかかろうという頃、私は気付きました。他者への思いやりにあふれるアラビア流のおもてなしの流儀に則れば、おそらく延々と引き留められることになるのだ、と。笑 タイミングを見計らっておいとまごいをさせていただいたあとも、お礼やら感想やらたくさんの写真撮影やらでひとしきり盛り上がっておりました。
それぞれの衣装が、似ているようで、構造も素材も構成要素も全く違うものであることがおわかりいただけますでしょうか。
日本ではまだなじみの薄いムスリムの文化に、親密な雰囲気のなかで触れることができた、貴重で忘れがたい機会となりました。
さて。ここで「その1」の中でちらと書いた疑問に戻ります。いったいなぜ、アラビア文化圏に出かけたこともない、しかも政府高官の夫人などではまったくない独身の私なんぞが「在日アラブ大使夫人の会」に招かれたのか? マダム・パレスチナのマーリがこのように教えてくれました。「なぜ私たちがあなたをお招きしたのか、疑問におもっていらっしゃるでしょう? 実は、ジュンアシダの広報誌にあなたが書いていたナジワ・カラームのエッセイに感動したからなのです。こんな風に書く人ならば間違いはないと思って、必死に連絡先を調べて、大使館の方にお願いして連絡をとってもらったのです」。
おお、ナジワ・カラーム。なんと人生とは想定をはるかに超えたところでつながるものなのでしょうか。日本でこそあまり知る人はいませんが、ナジワはアラビア文化圏における大スターで、その名声、実力、レコードの売り上げその他もろもろの記録はマドンナをはるかに超えているのです。この大スターが実は昨年、おしのびで来日しており、ひょんなご縁からインタビューする機会をいただいた私は、アジア圏で初めてナジワに取材したばかりか一緒に屋形船で花見をしたエッセイストとなり(笑)、その成果を長年連載している企業の広報誌に執筆していたのでした。英語版もあり、英語版は駐日大使夫人に行きわたっているはずなので、そこから発見してくださったという経緯はなるほど納得。
でも読者のみなさまの疑問は続くでしょう。なぜ私なんぞがおしのびで来日した中東の大スターにインタビューできたのか?と。
レバノン出身のナジワは、同じレバノン出身で現在ラスベガスの不動産王として活躍しているビジネスマンの友人として、昨年、ビジネスマンとともに来日していたのです。そのビジネスマンは、アメリカで活躍する日本人の女性経営者とビジネスパートナーの関係にあります。その女性経営者は私の知り合いで、私のことをとても信頼してくれている方なのです。
さらに、そもそも、なぜ私が女性経営者と知り合い、親しくなることができたのかといえば、あるパーティーの席で、彼女がラスベガスの不動産王の話を通訳するときに、あまりにも面白い意訳をしていたので私が率直におもしろい、と笑ったからです。シリアスなビジネスの話に笑う人などほとんどいません。でも本当に痛快な訳だったので、正直な私はつい笑ってしまった。そのことが、逆に彼女と私を近づけたというわけです。
つまり、心にわきあがった感情を率直に表現したことが、めぐりめぐって、中東の大スターと引き合わされるご縁を生み、それがさらにめぐりめぐって今回の大使夫人のお招きを受けることにつながった......ということになります。
いつでも心の声に正直に。フットワークはできるだけ軽く。目の前の人には少しだけでも心をオープンに。感動と感謝を伝えることを忘れずに。それが予想外の幸運を招き、人生を楽しくする(こともある)秘訣のひとつかもしれないと、不思議なご縁をふりかえってしみじみ思います。必ずしもいいことばかり起きるとはかぎらないということは常に肝に銘じておきますが。
Written by 中野 香織May 10,2017
(その1から続く)いよいよ昼食が始まります。各国の大使夫人がそれぞれの国の家庭料理を持ちより、それを各自がブッフェ形式でいただくというハートフルなおもてなし。
お料理の手前に、どこの国の料理なのかがわかるよう、料理の名前と国名、国旗が記されたカードが置かれています。
銀のトレイに美しく盛られた料理はどれも初めて食べるものばかりでしたが、心を込めて作られたことが胃袋を通して伝わってくる、スパイシーながらとてもおいしいものでした。
スイーツはあまりの甘さに衝撃。圧巻のフルーツはすべてそれぞれの本国から空輸されたものです。これが本来の自然の味というか、「甘くない」のです。日本のように甘くするよう改良していないので、むしろさっぱりとしていて、口直しに最適でした。
料理はどれも手が込んでいてすばらしく、できれば作り方を学びたいものもありました......と思ったら、マダム・ヨルダンのシファが、日本で入手できる材料を使ったアラビア料理の本を日本語で出したいと希望しているとのこと。とてもいいアイディアだし、この超インテリ美女軍団でもあるアラブ女性たちならばユニークな料理本ができるはず。読者のなかに出版社の方がいらしたら、ぜひ、ご検討くださいませ。私まで連絡いただければおつなぎします。
さて、食事が終わって場所を移してティータイム。豪華なティーセットが用意されています。
各国によってお茶やコーヒーの淹れ方や、飲み方の作法が違うんですよね。何種類か聞きましたが、スパイスの香りに酔わされ、なにがなんだか正確な区別がわからなくなっています。メモも判読不能...。申し訳ありません。唯一覚えているのは、カップが空になると延々と注ぎ続けられるので、「もうお代わりはいりません」というときは合図としてカップを左右にふる、ということ。デモンストレーションしてくれる赤いドレスの方はマダム・パレスチナのマーリ。ピンクのドレスの方はマダム・カタールのジャミーラ。彼女たちのドレスは至近距離で見ると実に贅沢な生地と仕立てで作られていることがわかります。溜息がでるくらいの迫力なのです。
ちなみに日本女性も10人ほど招かれていたのですが、アラビア文化関係者のほかは、ほとんどが政治家や外交官の奥様でした。
お茶をいただきながら、ゲストの一人、ユニセフの親善大使でもあるアグネス・チャンさんによるお話を聞きました。シリア難民の子どもの教育に関する最新情報です。シリアの子どもたちは美しく明るい。状況がいかに困難であっても、未来の希望である子供たちに教育を授けようと最大の努力が払われていることを知りました。アグネスさんの貢献にも頭が下がる思いがします。
アグネスさんの右隣のお着物の方は、外務省中東アフリカ局参事官の高橋さんの奥様。着物地と帯にアラビアンナイトの模様があしらわれているのです。帯留めもご自分のお名前をアラビア語でかたどったもの。このような、アラビア文化に敬意を表した着物で社交するという姿勢、さすが外交官の奥様だけあるなあと感動した次第です。
(その3に続きます)
Written by 中野 香織May 10,2017
みなさま、こんにちは。またしてもご無沙汰してしまってごめんなさい。
世界情勢が刻々と変わり、予断を許さない日々が続いていますね。攻撃や威嚇や緊張状態ばかりがニュースになりますが、生活文化やファッションを異文化に対して発信し、理解してもらおうとする努力を重ねて他国との平和な友好関係を結ぼうと行動する人たちもいます。世界の未来に明るい希望を見るためにも、今日はそのお話をいたしましょう。
ゴールデンウィークに入る直前、「駐日アラブ大使夫人の会」から昼食会に招かれました。場所はカタール大使館。なぜアラビア語圏に行ったこともない私などが招かれたのか? これについては後に大使夫人のひとりから聞かされることになるのですが、ともかくも私はアラブ世界に対する好奇心に導かれ、元麻布にあるカタール大使館をはじめて訪れたのでした。
一歩足を踏み入れるとそこはもうアラブ世界。えもいえぬよい香りが豪華な室内いっぱいに満ち満ちて、異次元に連れていかれます。そして迎えてくださった7人の駐日大使夫人たちのエキゾティックな美しさときたら...。ヨルダン、チュニジア、パレスチナ、モロッコ、イエメン、オマーン、カタール。それぞれの国のゴージャスな衣装に身を包み、丁寧に化粧を施し、フェミニンの極みのような香りと笑顔で迎えてくださったのです。西洋の方はしばしば日本と韓国と中国の区別をつけにくいとおっしゃいますが、私にしても、この時点では上にあげた各国の区別がまったくついていません。でも、服装も全く違ってそれぞれの文化ならではの特徴やルールがあるし、食文化やお茶の飲み方にも違いがあります。ひとりひとりと話をしてみて、ようやくおぼろげに感覚的に違いがあるようだ......とわかりかけてきた程度。
今回もてなしてくださった大使夫人たち。左からマダム・ヨルダンのシーファ、マダム・イエメンのジャミーラ、マダム・チュニジアのウィダッド、マダム・パレスティナのマーリ、マダム・モロッコのファティハ、マダム・オマーンのアビール、そしてマダム・カタールのジャミーラです。
さて昼食の前に次々にプレゼンテーションがおこなわれます。まずはアラビア流のおもてなしの解説。アラビア流のおもてなしはお香から始まるということ。そして基本はゲストに自宅にいるようにくつろいでもらうようにすること。見知らぬ人でも宿に困っていたら泊めてもてなし、3日目にようやく職業を聞くのだとか。
そして次なる話題は、「アラブと日本の類似点」。シルクロードを通って日本とアラブが交流してきた歴史の簡単な解説と、その結果としての類似品や、よく似た習慣の指摘がおこなわれます。シルク、お香、真珠、コットン。ゆべし、七味スパイス。モザイク、アラベスク文様、青い陶器、青海波モチーフ、ステンドグラス。長持ち、押し入れ、竹天井、土壁、和式トイレ=アラビックトイレ、ゴザ、すだれ。三味線、温泉、布団、おちょこ......。実に多くの類似点があることを豊富な写真スライドで見せていただきました。このプレゼンをおこなったのはヨルダンのシファさんですが(下の写真の右から2番目、グレーのドレス)、彼女はたいへんなインテリだなと感じたら、なんと理工系の大学院を出ていらっしゃいました。ほかの大使夫人も、大学院卒が多いとのことです。
さらにアラビア式インセンスのつくり方ともてなし方。水に香りづけもするんですが、その具体的なやり方をデモンストレーションしていただきました。マダム・イエメンのジャミーラがまとうドレス(ゼンナと呼ばれる)は金糸銀糸を使った豪華な服地で作られた精巧なもので、ヘッドピースはオスバと呼ばれ、既婚婦人が着用するのだそうです。イスラム教では基本、夫以外の男性に髪や肌をできるだけ見せないことになっていますが、「必ずしも義務ではない」とのこと。
ひととおりアラブ文化の概要を学んでからランチテーブルへ。席順は、折り紙で選びます。マダム・オマーンのアベールが折ったカラフルな鶴の折り紙から一羽を選ぶ。それと同じ鶴が置いてあるテーブルへ着く、という仕組み。このやり方、公平感もあり、素敵ですね!
さて、食事が始まります。(次の記事へ続きます。)