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「職人になりたい」と思ってもらうために / 「ヴァンクリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸」展 その1

Written by 中野 香織June 07,2017

みなさま、こんにちは。梅雨入りのニュースもちらほら聞こえる季節になりましたが、お健やかにお過ごしでしょうか。

6月に入ったばかりの週末に、京都国立近代美術館で開催されている「ヴァンクリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸」展に行ってまいりました。

6.3.8.JPG3日(土)に行われる講演会が最大の目的でした。ヴァンクリーフのプレジデント&CEOの二コラ・ボスさん、そして今回の会場のデザインを手がけた建築家の藤本壮介さんによるレクチャーです。お二人のお話を聞いてからこの展覧会を観たことで、展覧会の意図が明確にわかり、展示を多角的な視点から味わうことができました。そこで今日は、貴重なレクチャーから学んだことを中心に、みなさまと共有したいと思ったことを書きますね。

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ヴァンクリーフ&アーペルとは、1906年にパリで創業したハイジュエラーです。宝石を支える爪を表から見せない「ミステリー・セッティング」をはじめとした宝飾技法を次々に開発し、その技術は、「黄金の手」と呼ばれる専属職人により現在まで継承されています。

今回の京都での展示は「技を極める」をテーマに、ヴァンクリーフの作品が伝える超絶技法を、七宝や陶芸、金細工といった日本工芸の超絶技法と対比しながら紹介していく、という試みでした。いわば日仏超絶技法、夢の競演。

実はヴァンクリーフがこのようにジュエリーの展覧会をするのは初めてではなく、2012年にパリ装飾芸術美術館で「ハイジュエリーの芸術」展をおこなっているし、それに先立つ2011年にはアメリカのクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館で「セット・イン・スタイル」展を開催しています。

Set-in-Style.jpg(Photo shared from official HP of Vancleef & Arpels)

そして2016年にはシンガポールの「アート&サイエンス ミュージアム」において、石がどのように自然界で生成されていくのかという「宝石のアートとサイエンス」展を開催されたとのこと。そして今回の京都は4年前から準備が始められていました。

なぜ、ジュエラーがこのように世界中で展覧会を行うのか?

それは、宝飾職人の高度な技術を未来に伝えていくため。

ヴァンクリーフ&アーペルが扱うようなハイジュエリーは、ただビジネスだけをおこなっているかぎり、実際に見ることができるのは一部の特権階級、あるいは浮遊層に限られます。しかし、ジュエリーを作りあげる職人はそうではありません。高度に極められた技術は継承していく必要があるけれど、職人になりたいという若い人がいない。であれば、職人希望者を増やすためにも、この仕事を、今まさに華やぎ、将来も成長が見込めるすばらしい仕事として、もっと広く知ってもらう必要がある。そのように考えたニコラさんは、学校とも協力して教育の現場でジュエリーの楽しさを広めたり、展覧会を世界中で開催したりすることを通して、より多くの人に観てもらう努力を続けているのだそうです。

「職人になりたいという若い人がいない」。日本の伝統工芸の分野や、服作りの領域でも、しばしば耳にする嘆きです。でもニコラさんの話を聞いて「なるほどなあ...」と思ったのですが、そもそも、そんな仕事があるということが「知られていない」ということも確かにあるのですよね。ジュエリーであれ工芸であれ、まずはそれが魅力的な、意義を感じられる仕事であることを「広く知ってもらう」ための行動を起こし、それを続けていくことから始めなくてはならないのかもしれません。認知度を高めることは決して大衆におもねることではなく、業界全体の現在と未来の発展につながるという指摘は、きわめて説得力がありました。

6.3.6.JPG会場には、宝飾職人が実際に使っている机の再現も。このように木をくりぬいた部分に身体を入れる。これはとても作業がしやすいはず。資料や辞書や写真やパソコンなどを360度方向に散乱させて原稿を書いている私も、これは使いたい!と思いました。どなたか事務机としてプロデュースしてください。

6.3.7.JPG窓からはパリのヴァンドーム広場が見える...という仕事場の再現風景。

(その2に続く)

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