ロンドン・メンズファッションの今 / London Sartorial: Men's Style from Street to Bespoke
August 04,2017
お天気が不安定な夏です。時には家で本のページをめくりながらゆっくり充電するのもよいですね。メンズファッションの世界がお好きな方に、最近、出版されたばかりの本をご紹介します。
ディラン・ジョーンズ著「ロンドン・サートリアル:ストリートからビスポークまで」(Dylan Jones, "London Sartorial: Men's Style from Sartorial to Bespoke. Rizzoli)。
洋書なのでイントロダクションはじめテキスト部分は英語ですが、本の大半は写真で構成されていますので、ロンドン・メンズファッションの今を感じ取りながらその全体像を分類・概観したい向きには参考になります。
ビジネス向きのスタイルのページより。細身のモダンブリティッシュ。
著者のディラン・ジョーンズは1960年生まれのジャーナリストです。1999年以来、UK版GQの編集長をつとめ、i-DやArenaといったメディアにも関わり、The Independent はじめいくつかの新聞でもコラムを寄稿しています。著書も多数。
(上は、この本の著者紹介のページに掲載されていた写真です。)ディランがGQに移ってからこの雑誌は変わりました。質の高い執筆陣をそろえたばかりか、政治の色も強めていったのです。元ロンドン市長、ボリス・ジョンソンにも車の記事を執筆させたり、保守党党首になった直後のデイヴィッド・キャメロンを表紙に使ったりもしています。その後、UK版GQは数々の賞を受賞、ディラン・ジョーンズ本人も、ファッション・ジャーナリズムとファッション産業への貢献が認められて2013年にO.B.E.を受勲しています。日本の「ファッション・ジャーナリズム」と呼ばれるものの大半がブランドの太鼓持ちにならざるをえない現状と比較してはいけないのかもしれませんが、このような大胆な例があるということは、ファッションを題材に仕事をしている者にとって、大きな希望となりますね。
さて、内容ですが、サヴィルロウのビジネススタイルから、前衛的なデザイナーズ、反逆的なストリートにいたるまで百花繚乱のロンドンメンズスタイルが、大きく10種類に分類されています。
「マイスタイル」、「パークライフ」、「ピンストライプ・パンク」、「ウエストエンド・ボーイズ」、「ビジネス」、「ブリット・ポップ」などなど。
さらに、今注目すべきメンズブランドの解説や、メンズウエアのショッピングガイドまでついており、実際にロンドンに行ってお金を使いたいと思いたくなるような構成になっているあたり、さすがやり手のGQ編集長。
老舗ブランドのイメージも、クリエイティブディエレクター次第で刻々変わるので油断なりません。「ギーヴズ&ホークス」のページを見て驚きましたもの。つい昨年、サヴィルロウ1番地にあるこのブランドの由緒ある歴史と今についてトークショウをしたばかりだったのですが、現在はさらに変貌を遂げ、モダナイズされています。現在はマーク・フロストがデザインディレクターに就いていますが、歴史の遺産を生かしながら、軽やかで風通しのいいイメージを作り上げています。
6月にうかがったロンドン・ファッション・ウィーク・メンズで、その人気の高さに驚いたE-Tautzに関しても、さっそく最新の解説を読むことができました。クリエイティブ・ディレクターのパトリック・グラントは、2010年にブリティッシュ・ファッション・アワードのメンズデザイナー賞を受賞しているのですが、BBC2 のテレビ番組"The Great British Sewing Bee"の審査員も務めているのですね。
(左がパトリック・グラント。右はエスメ・ヤング。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズという有名ファッションスクールの講師で、「スワンキー・モード」というブランドの創始者でもあり、「トレインスポッティング」や「ブリジットジョーンズ」の衣装デザインも手掛けています。写真は番組のHPよりシェアさせていただきました。)
この番組じたい、初めて聞いたのでさっそく調べてみましたところ、素人のソウヤー(縫う人)がイギリスNo.1のソウヤーを目指し、その腕を競い合う番組らしい。このような企画、よいと思いませんか? ソウヤーもシンガーと同じように、才能を見出され、讃えられ、育てられ、日の目を当てられるべき。それによってソウヤーを目指す生きのいい若者もどんどん出てくるし、ソウヤーが働く現場が活性化します。日本でもぜひこのような企画をやってみませんか? テレビ関係者の方、もしくは今ならYou Tubeで始めることも可能では。
......などなどとしまいには本を離れて妄想が走りだしてしまいましたが、そのように、この分野に関心がある程度高い人にとっては(←ここ、一応強調しておきますね。そうでない方にとってはマニアックすぎる本なので)、触発されるところが多い、魅惑的な一冊です。